出張中に読んだ本
「龍時02-03」野沢 尚 (文春文庫)
リュウジシリーズ第二弾。
ベティスに移籍したリュウジは、一人で家を借りて生活を始める。向かいのアパートに住むフラメンコダンサーとの恋も始まる。
サッカーのピッチに立っているかのような臨場感の溢れる描写に引き込まれる。試合に興奮し、タックルを受けて痛むことのできる作品。
リュウジシリーズ第三弾。そして著者の急死によって最終刊となってしまった。リュウジは日本代表としてギリシャでのオリンピックで活躍する。グループリーグ最終戦から決勝までの四試合を描く。現実の大会では予選グループ落ちだったから、かなり違う結果となってしまったけれど。
巻末には著者による「04-05」の予告がある。どうやらドイツワールドカップアジア最終予選にリュウジを登場させるつもりだったようだ。
「蛇を踏む」川上 弘美 (文春文庫)
芥川賞受賞の表題作と、「消える」、「惜夜記」(あたらよき)の三編を収録している。
公園で蛇を踏んだ。するとその蛇が人の姿になって家に居着いてしまった。しかも自分の母親だと名乗る。そうして蛇の世界へと誘う。
妄想や空想は誰でもすると思うが、それを著者は「うそばなし」と呼ぶ。この三つのうそばなしの中では「消える」が一番わかりやすかった。
一連の殺人事件を追う刑事合田の行動や考えを緻密な描写で、事件の終末までを描く作品。
途中の殺人が、街中で夕方に行われたのにほとんど目撃者がいないとか、都合良すぎると思うところもあるが、細かすぎる指摘なのだろう。この作品は、合田が如何に緻密に犯人を追っていくかがメインテーマだから。警視庁本部とはいえ、平の刑事である合田は、他の部署、同僚、上司と衝突したり協力したりしながら事件解決に向けて動いていく。名誉や金のためではなく、純粋に事件を解決したいという意思が見えていると思う。
「朽ちた樹々の枝の下で」真保 裕一 (文春文庫)
北海道富良野で働く森林作業員尾高が自衛隊の不祥事を明らかにしようと、走り回るはなし。警察などの捜査機関とは何の関係もない素人男が一人で自衛隊の不発弾横流しの事件を追う。
山の中を動く描写は現実味がなくて今ひとつ。舞台になっている地方の地理は詳しかったので楽に読めた。しかし、著者の作品の中では平凡な作品だった。それは描写力というよりはプロットの平凡さによるものだと思う。